井筒俊彦『意識と本質―精神的東洋を索めて』(1991、岩波文庫)
1983年に刊行された井筒俊彦の代表的著作。副題の「精神的東洋を索めて」が示すように、井筒は、「自分の実存の「根」は、やっぱり東洋にあったのだ」(p409)という痛切な自覚から、本著で「東洋哲学」の理念を追い求めるという壮大な試みに立ち向かった。だが、一言で東洋哲学といってもその射程は眼が眩むほど広く、多様である。それは、本居宣長、松尾芭蕉、宋代儒学、老荘思想といった日本・中国の思想に留まらない。カッバーラーなどのユダヤ教神秘主義やイブン・アラビーなどのイスラーム哲学、さらにはヴァイシェーシカ学派などのインド哲学にまでその射程は及ぶ。井筒は、こうした限りなく多様に見える東洋の諸哲学を「共時的構造化」——諸思想を時間軸から解放し、それらに共通する一つの思想的連関空間を創造しなおす——という方法によって、創造的に理解しようとするのである。
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