VORDHOSBN

本の要約、メモ、書評など。

【読書メモ】内藤正典『アッラーのヨーロッパ』

内藤正典アッラーのヨーロッパ』(1996年、東京大学出版会

 

はじめに 統合ヨーロッパの光と影 

シェンゲン協定⇔一方で外に壁を作る

 外国人をめぐる問題、徐々に移民「問題」が先鋭化

 雇用によって仕事が奪われる??経済に負??国民国家を分断??

・これに対してヨーロッパ=多様な政策

 排斥(イスラム脅威論)も

・トルコ移民の定住化

 そんな中で自らのアイデンティティとしてイスラームを選び取る

 =ムスリムの覚醒を経験

 

第1章 共存の争点としてのイスラム復興

イスラム復興の活発化=近代化の夢の挫折→オルタナティブの模索→イスラム文明の衝突(ハンチントン)=イデオロギー対立はアイデンティティ対立に

 =オリエンタリズム的思考。イスラムを全て原理主義に一括り

イスラームと西欧は相容れない??イスラムシャリーアで男尊女卑で後進的?イスラームと民主主義は相反する?

 =実際は相入れると主張する穏健なイスラム復興運動

 ・後進性の象徴としてのスカーフ

 女性の男性に対する隷属??抑圧??―これはステレオタイプ

  こういった西欧の差別と排斥=イスラムが対抗する力を生み出してしまう

 

第二章 政教分離国家トルコのイスラム復興

・ライクリッキとは?―ライシテを語源に

 ライシテ=国家と宗教を分離、国家を非宗教的領域と位置づけ

 +国家による宗教の抑圧

民主党~官製によるイスラム復興の動き

 しかしかえって官製外のイスラム復興を助長

・エルバカンの登場=閉鎖的サークルから開かれた政党へ

 70sの社会不安と左派の先鋭化

 官製イスラムとトルコ民族主義の融合(TIS)

・80sのイスラム復興の顕在化→福祉党政権

 

第三章 民族が共存を阻むドイツ

・ドイツ=移民の定住を想定していない(=一時的なものだと想定)

 しかし現在第二世代・第三世代へ

 『―統合か帰国か』

・統合=実際は同化(参政権や国籍取得をめぐって)

 二重国籍の不可⇒進まない国籍取得

血統主義が拒む統合

 移民はドイツ国保有者になれるが、「民族的」ドイツ人には絶対なれない

 →同化も統合も志向してなかった…?

 ⇒疎外、排斥、差別へ―トルコ人側も、こんな社会に同化しようとは思わなくなってきた

・「アイデンティティの危機」=母国トルコのことはよく知らない、ドイツでも排斥される→差別に抵抗する力としてのイスラム

 ※ケマリズム=限界

 =差別と阻害に対抗する唯一の力としてイスラム←ネットワーク有、孤独感を癒せる

 

第三章 フランスのムスリムか、フランス的ムスリム

・初期ミッテラン政権=「相違への権利」←移民に寛容

 第一世代=差別を感じても、言語の壁があるからそのせいか、と思う(「言語による差別」)

 第二世代=言語を習得したけれどもやはり差別⇒やはり「外国人差別」ではないか…

 →社会問題の発生=HLMの問題→仏政府はこれをエスニックな問題としては取り上げず

 ・ドイツのような血統主義的排斥はないが(仏=出生地主義)…徐々に排斥

 国民戦線の台頭、「原理主義」は排斥すべき

 ⇔フランス的ムスリム(ライシテを順守するムスリム)には支援を惜しまない

  ※政党によって立場は異なる

 ・ドイツ(volk)=人種的血統主義

・フランス(nation)=共和国への参加と契約の理念(普遍主義)。外国人をあくまでも「個人」として受け入れる

 ⇔イギリス(多文化主義的)、オランダ(多極共存)

 ⇒フランス=国家の諸原則を承認する限りにおいて、「個」としての外国人をフランス社会に受け入れる。一方ある民族をエスニック集団として受け入れることを想定せず

 ⇒仏の原則としてのライシテ→これを受け入れられないムスリムが異議(=ライシテとの衝突)

・スカーフ論争=きわめてフランス中心的視点、イスラムを後進とする啓蒙思想

       ―女性抑圧・原理主義というレッテル

・個の統合の限界=「アルジェ人」を「アルジェ人ではなくフランス人」として処遇できても、「宗教」に関して「ムスリム」を「ムスリム以外の者」と処遇はできない

 ・フランスの分割統治=マグリブ系組織をイスラム組織の代表にする

 ⇔一方トルコAMGTは疎外→Islam de Franceを前提とし、Islam en Franceでは交渉不可

  しかしこの「分割統治」は今まで頑なに拒否してきた「モザイク社会化」を進行=ジレンマ

 

第五章 多文化共生と見えざる差別・オランダ

・排外主義を防ぐシステム=多文化主義(自らを組織化する自由も⇔仏・個人)

 政治参加可、国籍取得容易(二重国籍可)

 移民の「文化の列柱」に資金援助 ※ただし民族主義には例外(eg灰色狼)

 外国人労働者エスニックマイノリティー移民

 ・オランダは移民のユートピアか?

 移民受容の限界、規制の非タブー化

 「生きたいように生きることを認め合う」→麻薬中毒者・娼婦があふれる社会=イスラム的ではない

 リベラリズムが生み出す隔離、排外主義の台頭

 

第六章 イスラム復興に何を託すのか

・移民のムスリム=モスクへ行く→モスクは皆何かしらのイスラム組織下にあるため、いずれかの組織に属することに→イスラムとしてのアイデンティティ

 ※その他の選択肢…非宗教的組織(egアタテュルク主義)、個人としてホスト社会に統合される=難しい

 彼らは疎外されることでかえってイスラム復興の動きを強める

 ・トルコ系イスラム復興組織の多様化

 宗務庁系(DITIB)=親ラーイクリッキ、国家による宗教の管理を目的

           →イマームを派遣、在野のイスラム復興運動を規制

 エルバカン系(AMGT)=シャリーア体制樹立を主張(政党制・議会制を通して)

             移民による団体、全ムスリムに開かれた組織、多様な支援

・ヌルジュ、スレイマンジュ(~80s)

 カプランジュ=世俗国家としてのトルコを否定、孤立

 トルコ・イスラム協会=TIS的

 

第七章 信教の自由か、イスラム国家の樹立か(在オランダAMGT代表との会談)

 

第八章 イスラム復興をめぐる争点

・ドイツにおけるイスラムの代表権をめぐる問題

 個人の信仰の自由○、しかし組織として=キリスト○、イスラム認められず

 教育を巡る問題―イスラムの宗教教育を認めるか

         公教育が認められていないため、モスクやコーラン教室で学ぶ

         →これが原理主義を生み出しやしないか

・代表としてDITIBは宗務庁系なので原理主義への不安はないが、最大組織はAMGT

 さらにDITIBだとトルコ政府の干渉があるのではと危惧

・フランスにおける公認問題

 公認したのはアルジェ系組織⇔トルコ系

 「フランス的ムスリム」しか認めない⇔非暴力的組織(AMGT等)も排除していいのか

・ヨーロッパとトルコの障壁

 公教育、イマームの公務、信教と表現の自由(スカーフなど)、イスラム脅威論、後進的イスラムウンマ共同体と民族

 

第九章 統合と多極の移民社会

・様々な移民機関=子供のために、女性のために、労働者のために、伝統・信仰のために→これらは徐々に系列化=一方で成功、一方で分裂

 屋根としてTGB→のちにDITIBも参加、トルコ共和国の干渉に束縛され始める

 ⇒TGBは政府と協力、官製イスラムと提携、民族主義的に=トルコ・ロビーに

・BETBの設立=反政府等、TGBから疎外された団体を包括

 ⇒TGB、BETBどちらにも属さない団体が増加eg女性団体

・AMGTがピラミッド型の組織作り

⇒移民組織=多極化「いかなるトルコ人として生きるのか?」