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本の要約、メモ、書評など。

【読書メモ】高田宏史『世俗と宗教の間——チャールズ・テイラーの政治理論』

高田宏史『世俗と宗教の間——チャールズ・テイラーの政治理論』(2011、風行社)

 

(※自分の興味がテイラーの世俗主義論にあることから、以下メモ書きはほとんど『世俗の時代』周辺の記述のみです。) 

 

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【読書メモ】デヴィッド・グレーバー  『民主主義の非西洋起源について』

 

デヴィッド・グレーバー『民主主義の非西洋起源について』(訳)片岡大右(2020年、以文社

 

 「民主主義はアテネに起源を持つ西洋起源の理念である」という通説の誤謬を明らかにした刺激的な一冊。そもそも現在的な意味(肯定的な意味)で民主主義の語が使われるようになったのはごくごく最近のことであり、この語はアメリカの独立頃においても「民主主義=不安定な暴徒支配」の意味で用いられていた。これが西洋的伝統であると考えられるようになったのは、選挙権の拡大した20C頃からであり、この頃に「高尚な西洋の伝統」としての民主主義像が形成されるようになった。

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【要約】リチャード・E・エヴァンズ『第三帝国の歴史 第一巻——第三帝国の到来(下)』

リチャード・E・エヴァンズ『第三帝国の歴史 第一巻——第三帝国の到来(下)』(監)大木 毅 (訳)山本 孝二(2018、白水社) 

 

第三帝国の到来(上)』の続き。下巻となる本書は世界恐慌からヒトラーの政権掌握までを詳述。

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【要約】リチャード・E・エヴァンズ『第三帝国の歴史 第一巻——第三帝国の到来(上)』

リチャード・E・エヴァンズ『第三帝国の歴史 第一巻——第三帝国の到来(上)』(監)大木 毅 (訳)山本 孝二(2018、白水社) 

 

本書は、ビスマルク以降のドイツの歴史を幅広い視点から大ボリュームで論じた『第三帝国の歴史』の第一巻である。しばしば議論に上がる「なぜドイツはナチズムを生んだのか」という問題は、単線的な歴史解釈や本質主義的なドイツ解釈では十分に理解できない。同様に、ナチズムの勃興を同時代のヨーロッパ独裁制の中で生じたと考える解釈も、ほかでもないドイツでナチズムが生まれたことを説明しない。エヴァンズは、ナチズムが本質的にドイツ独自のものであった政治的・イデオロギー的な伝統と発展から成功を引き出したことを否定しない。他方で、ナチズムの勃興はあらかじめ決められた結末ではなく、そこに至るまでのプロセスは様々な方向への紆余曲折を経ての帰結であった、と主張する。ゆえに、本書では、ドイツ史の記述をビスマルクから開始し、以降の複雑な歴史プロセスを辿っていくのである。

 

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<第三回>ベルクソン『意識に直接与えられたものについての試論』を読む

 さて、第三回も前回に引き続いて第二章を読み進めていきます。

 第二回では、二つの多様体——数的多様体と質的多様体——についての議論を追っていきました。前回の最後で提起されていたのは、「空間」と「時間」について、数的/質的の区別に照らして論じると、どのようなことが言えるのか、ということでした。ベルクソンは、「空間」についてはカントの議論を下敷きにしながら、一方で「時間」については「持続」という観点から「時間」をめぐるカント来の議論を乗り越えようと、論を進めます。

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<第二回>ベルクソン『意識に直接与えられたものについての試論』を読む

 第二回は、第二章(意識的諸状態の多様性について——持続の観念)を読み進めたいと思います。

 第二章に入る前に、第一章の振り返りの意も込めて、本章で用いられる概念について少し説明を加えておきましょう(第一章から出てきている概念ではあるのですが、わかりやすさの観点から第一章時点では触れませんでした)。とはいっても、第一章で執拗に繰り返された「質」と「量」の話が分かっていれば特に難しいことはありません。

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<第一回>ベルクソン『意識に直接与えられたものについての試論』を読む

 

 ふだん、私たちは、ある感覚と別の感覚を比較し、この苦しみの方があの苦しみより大きいとか、今日の悲しみはあの日の悲しみの二倍だとか言ったような形で、感覚を大小の量的な仕方でとらえています。ベルクソンは、このような感覚を量的に考えることはまったくの錯覚であると批判します。我々の感覚の間にあるのは大小の量的な差異ではなく、「本性上の質的な差異」だ、と。どういうことでしょうか。

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